神戸地方裁判所 昭和30年(行)18号 判決 1956年5月04日
原告 全圭春
被告 灘税務署長
主文
本件訴はこれを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「被告が原告に対する昭和二十七年度所得税につき昭和二十九年十二月四日附でなした誤謬訂正処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、
「(一)、原告は洋服商を営むものであり、被告に対し昭和二十七年度所得金額を金二十六万円とする確定申告をなしたところ、これに対し、被告は昭和二十八年四月一日附を以て所得金額を金八十六万五千円と更正し、その旨通知をうけた原告はこれを不服として被告に対し再調査請求をなしたが同年六月一日附を以て却下されたので更に訴外大阪国税局長に審査請求をなしたが、これまた棄却されるに至つた。
その後、被告は昭和二十九年十二月四日附で右所得更正額を金六十三万五千円とする旨の誤謬訂正処分をなしたので、原告はこれを不服として同日より一ケ月以内である同月二十三日附書面を以て大阪国税局長に対し審査請求をなしたが昭和三十年五月十日附で却下され同月十二日右通知をうけた。
(二)、然し乍ら右訂正処分は、原告の前記確定申告に基く所得金額及び同税額を無視した不当違法のものであるからその取消を求めるため本訴に及んだ。」旨陳述し、
被告の本案前の抗弁に対し、本件誤謬訂正は原処分と一体をなして効力を生ずるものではなく、独立の行政処分であり、たゞ該処分の異議申立方法につき直接の規定がないけれども、訂正された所得金額が確定申告額を超過する限り未だ納税義務者たる原告は満足できず斯かる場合は所得税法上更正の場合に準じて不服申立が許容さるべきであつて、右訂正処分に対する審査の決定を経て提起された本訴は適法である。仮に、右主張の理由がないとするも前記再調査の申立は前記更正決定に対する法定期間内に、被告の希望により納税組合を通じてなされたものであるが、たゞ同組合の雇員が過失に基き右期間経過後右申立書を被告に提出したに止り原告の数度に亘る陳情の結果、被告は右再調査請求に対し実質上更正所得額を減額して本件誤謬訂正をなしたのであるから、本件誤謬訂正処分は再調査の決定である、したがつて其後原告において適法な手続を履践して提起した本訴は違法である。」と述べた。
被告指定代理人は、本案前の抗弁として、
「原告主張事実中(一)の事実は認めるが本訴は次の理由に基き、不適法として却下さるべきである。即ち
(一)、本件誤謬訂正は、被告が職権に基き自発的になした更正所得額を一部減額する利益変更処分であり、該処分は原更正処分と一体となつてはじめて当初に遡及して訂正された内容の処分があつたと同様に取扱われるものであるから訂正処分それ自体は独立して取消訴訟の対象となるに適しないものである。
(二)、本件訂正処分前に、大阪国税局長が原告に対し原更正処分に関する審査請求につき棄却決定の通知をなしたのは昭和二十八年十月三十日であり、本訴は所得税法所定の出訴期間を徒過してなされた不適法のものである。」と陳述した。
理由
原告の請求原因事実中(一)の事実は当事者間に争いがない。
原告は本件誤謬訂正処分により訂正された所得金額が確定申告額を超過するから、かかる処分は独立して取消訴訟の対象となる旨主張するので判断するに、本件訂正処分は、処分行政庁たる被告において当初の更正決定額に誤謬を発見し当該所得金額を減額し、もつて右更正決定の一部を取消して納税義務者たる原告の課税負担を軽減せしめた処分であつて、右更正決定と切り離してそれ自体内容を有するものでなく、又右処分により原告に対し新たに不利益を与えたものではないから本件誤謬訂正処分に対しては独立して取消訴訟を提起することはできないものと解する、若し納税義務者においてかかる誤謬訂正処分に対しなお不服があつて、その救済を求めんと欲する場合には、右訂正処分により所得金額同税額を削減変更された限度において効力を持続する原更正処分を不服申立の対象とすべきであつて、原告主張の如く訂正処分のみを切り離して取消を許すときは、原更正処分が復活し、納税義務者にとつて、かえつて不利益な結果となる。したがつて原告の右主張は採用できない。
次に原告は、本件訂正処分は、前記更正決定に対し原告がなした再調査請求に基き実質上更正所得額を減額した再調査決定であつて、原告において右減縮額を不服として審査手続を経て本訴に及んだものであるから訴は適法なる旨主張するけれども右更正決定に対する原告の再調査請求についてはすでに被告において棄却の決定をしたこと前記のとおりであるから本件処分が右再調査請求に基く決定でないことは明白である。
以上の理由により、本件訴は不適法であるから却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 村上喜夫 谷口照雄 大西一夫)